口の中が苦い……

市民がすべてコミットすべき問題なんて存在しない
http://d.hatena.ne.jp/furukatsu/20090607/1244378753

まず、本来すべての市民の問題として考えるべき問題などというものはありません。ある人がその個人、ないし所属する共同体などの利害や責任の関係においてコミットメントを求められる場合はあるでしょうが、それはすべての市民の問題などではありません。

南京をだしにkanonが好きなことを強調しているのではなくて、kanonをだしにして南京への「感情的」なコミットメントが出来ないことを表明しているのです。
そしてまた、「表現規制問題」について他人にコミットメントを強要しようとは思っていませんし、同時にコミットするな、というわけでもありません。

こういう主張をする人が

泣く子と女性には勝てない
http://d.hatena.ne.jp/furukatsu/20090614/1245000807

もし、エロゲーが規制される日が来たならば、貴様らの表現も難癖つけまくって規制されるようにしてやります。この議論で私の論じる表現の自由に縄をかけようとしてきたのは、みんな左翼でした。ならば、私は、左翼のデモやビラまきなどに対する恣意的な規制に全力で賛成して見せましょう。南京大虐殺についての議論を民族的正義に反すると糾弾しまくって規制への先鞭をつけてやりましょう。ついでに、フェミニズムの議論も女が社会に出たからダメになったんだと議論してやりましょう。


id:Dr-Setonさんとのやりとりを読んでみるとfurukatsuさんは表現の自由を「furukatsuさんが」主張することの論理的矛盾に気付いていないんですかね。ゲーム規制反対論者の「全員」じゃないんですよ。furukatsuさんの論理に穴があるからだと思えるんですけど。


黒人A:「黒人を弾圧する法律だ!問題があっても法律以外で解決しよう。人種差別法反対!」
ユダヤ人:「例の話が黒人弾圧なのかは慎重に考えないと断言できない。とはいえ弾圧であるなら黒人だけの問題ではない。我々だけの問題でもない。反対しよう」
別の論者:「ホロコースト否定論を議論のオモチャにしている奴らはどうかしている」
黒人A:「どうでもいい」
ユダヤ人:「えっ」
黒人A:「そんな昔の話本気になれない。みんなそうだと思う」
ユダヤ人:「えっ」
黒人A:「みんなの問題なんて無いよ」
ユダヤ人:「法律以外って言うならその発言は……せめて黙ってろよ、自分が何に反対してるか判ってる?自分の提出した処方箋、守ってる?」
黒人A:「強制しないでいただきたい。それが自由。別の話。優先順位が違う」
黒人B:「言葉はまずいけど世の中そんなもんでしょ。ぶっちゃけ俺だって黒人とそれ以外じゃ……」
ユダヤ人:「だったら黒人問題だね。人種差別法反対なんて関係ないだろ……」
黒人B:「俺が黒人を理由にどれだけ差別されたと思っているんだ!それでも俺は黒人であることにプライドを持っているんだ!黒人を侮辱するな!」
ユダヤ人:「ついさっき黒人以外を侮辱したことに気付いてる?」
黒人B:「侮辱しているのはあんたの方だ。ユダヤ人は黒人より偉いと思ってるんだろ!白人め」


そして
黒人A:「この問題で私の発言に縄をかけようとしたのはユダヤ人ばかりだ。法案が可決されたらユダヤ人の議論も糾弾してやる。ユダヤ人の権利も踏みにじってやる」
黄色人種:「それ、私の議論だったりもするんだけれど。脅迫?」
黒人A:「コミットを強制する気はありません」
ネイティブアメリカン:「それ、私の権利だったりもするんだけれど。脅迫?」
黒人A:「強制しているのはユダヤ人です」
その他少数民族、やはり黒人でもユダヤ人でもない人々:「全ての市民の問題なんて無いって言ってたよね。なんで私たちの権利を踏みにじるの?民族関係ない」
黒人A:「いつの日か虐げられた皆が立ち上がり、権利のために戦いはじめるんだ!」


自己陶酔。自己憐憫
自分たちへの偏見や蔑視を当然と言い、そんな自分たちのための権利として表現の自由を主張する。
その論理は偏見や蔑視に苦しむ他の人々を救わない。あなたは差別を偏見を「合理的」なものとして「認知」しているんですよ。

戦場を選んでいるのだ、とあなたは主張します。私にはそれだけには見えません。同時にあなたは武器を、そして手を組む人たちを選択したのです。苦しむ人々を救うだけではなく、傷つけるためにも使われる武器を。苦しめられている人々ではなく、苦しめている人々を。武器に罪は無く善悪も無い。使い方次第です。使う人によってそれが決まる。あなたはそれをよく知ってるんです。耳にタコができるくらい。だからあなたは質問を受けた。自覚が問われたわけです。私たち全員がその棍棒を持っているはずです。しかしあなたは全員の問題など無いと言う。自分がゴミムシだから質問されたと思っている。自分をゴミムシと呼ぶあなたは性癖が問われたとしか思わない。それが自分をゴミムシと呼ぶ理由だからです。あなた自身が道徳と性癖を結びつけて切り離さない。あなたにとって「倫理」や「道徳」はそれしか意味しない。そんな程度にしか価値はない。あなたは質問を一蹴する。


在特会の人々は喜ぶでしょう。あなたは彼らのヘイトスピーチを擁護してくれる。非難する根拠は無い。かれらの行動とあなたの行動のあいだに、いかなる一線もあなたは引かない。「道徳」も「倫理」も「差別」も「他者危害」もあなたは主張できない。在日朝鮮人が涙を流して、カルデロンさんは罵声に耐える。


あなたのエントリーに対して「最後の段落以外は同意できる」というブックマークコメントが幾つか寄せられています。

だから、心情的にはid:mojimojiさんに共感する部分はあります。エントリーで「願わくば、こうした共感が、障がい者被差別部落出身者、女性、性的少数者、外国人、民族的少数者ら、他の同じく人権を侵害されている人に対してもむけられんことを。」と書き、コメントでも「陵辱表現の自由を主張される方が、自己の陵辱表現を楽しむ自由さえ確保できれば、差別や脅威にさらされている他の人の人権が侵害されようが興味がない、と表明されるのであれば、個人的には軽蔑すると思います」と書いたのはそのあらわれです。


ただし、id:BUNTENさんがコメントされているとおり、この願いはかなわないだろうと思います。陵辱表現の自由を主張する立場から、私のエントリーを好意的に受け止めてくれた人の中で、私の普段の仕事に共感を持つようになる人は多くはないでしょう。こうした表現を愛好する人の中に(もちろん、規制を主張する人の中にも)、私の大事に思っている人たちに対して、叩き出せとか、犯罪者とか、学校に入れるなとか、罵倒のコトバを投げつける人がいることも知っています。


モジモジさんのその4について - いしけりあそび〜ふなうた
http://d.hatena.ne.jp/barcarola/20090613/1244917026


Dr-Setonさんが要求したものってなんだったのでしょう。

でも、それがなんだというのですか。私はそんなことは気にしませんし、彼らの口をふさげとも思いません。それは、私が求めるものは、個人の尊厳であって、彼らの口をふさぐことによって得られたり、「世論の風向き次第で」消えてしまうようなものであってはならないからです。


モジモジさんのその4について - いしけりあそび〜ふなうた


個人の尊厳、他者の尊厳の尊重だと私は思っています。「世論の風向き」なんかじゃ消せないはずのもの。自尊心の有無がその妨げになることは無いはずです。
人権を侵害されている人々がいる。その人たちに「あなたは悪くない」と言えるかどうか。それが「道徳」なのか「倫理」なのか「義憤」なのか。どんな名前で呼ばれるのかは判りません。
あなたはそこで自他の尊厳を天秤にかけた。個人の尊厳を自他に分類した。同じことをやった人たちがあなたの他にもいました。
「もっと大事なものがある」
「悪いのは俺じゃない」
天秤にかける必要なんか無いのに。

barcarolaさんは苦しんでいる人たちの力になっています。だからこそ罵倒の言葉を跳ね返すように「それがなんだというのですか」と言えるんだと思います。今の私が同じことを言っても「悪いのは俺じゃない」としか聞こえないでしょう。それは苦しんでいる人の尊厳を肯定するものではありません。自分に向かって言い訳しているだけです。

とりわけ、世界のどこかである不正が誰かに対して犯されたならば、それがどんなものであれ、それを心の底から深く悲しむことのできる人間になりなさい。それが一人の革命家のもっとも美しい資質なのだ。さようなら、わが子たち、まだ私はお前たちに会いたいと思う。しかし今はただバパの最大のキスと抱擁を送る。

チェ・ゲバラ 別れの手紙 我が子たちへ

これが左翼の倫理なら私も左翼でいいです。でも憧れているだけの駄目左翼です。説得力が無いから。いしけりあそびさんやシートンさんならキマルんだけどなあ。今は駄目でもいつかは、少しずつでもいいからなんとか。憧れているだけじゃなくて。